[イーナチュラルな人々]
2021年、夏の始まり。
その日の夜、私は一日の仕事を終えたのちに夕飯もすませ、
家のリビングでハイボールを軽快に喉に流し込みながら、
ノートパソコンでウェブサイトを見ておりました。
壁にかかっている時計にふと目をやると、
なにやらラグビーボール状の茶色い物体が、
7時の針の位置くらいにあることに気がつきました。
その時、私はつまみにミックスナッツを食べていたので、
「はて、なんであんなところにアーモンドが?」と1秒くらい
頭をよぎった後に、すべてを理解しました。
6年ぶりくらいの遭遇でしょうかね。そう「G」です。
みなさんお嫌いなカサカサとすばしっこい「G」です。
ちなみに私はGに対する耐性があります。
小さいころクワガタ取りに出かけ、夜で暗くてよく分からなくて
樹液にたかるクワガタと間違えてGを掴んでしまうという
経験を積んでおりました。積まなくていい経験ですが。
とはいいつつ、同じ部屋に同居するほどのシンパシーも無いので、
どのようにヤツを排除するかに思考は切り替わる訳ですが、
なんせ滅多にお目にかかることがないので、
殺虫剤といった攻撃兵器の持ち合わせがありません。
「叩くか...」と思ったのですが、取り逃がす可能性も低くない点、
また叩くことで白い壁紙になんらかの痕跡が残ってしまう可能性を
恐れました。
このまま見なかったことにしようかなとも思いましたが、
いることを知らない/いる/いるかもしれない、の3つの状況を
考えた時に「いるかもしれない」が一番嫌だなと思った瞬間、
近所のドラッグストアにダッシュしていました。
ドラッグストアにはもちろん殺虫剤は置いてありましたが、
想定外だったのはどれも2缶セットだったこと。
これは使い切れない。そして1,000円くらいするんですよ。
Gのために1,000円払うなら、特売で999円のスーパードライの
6缶パックを買った方がお金の使い方として正しいのでは?と
一瞬頭をよぎりましたが、今はそういう価値観で物事を判断する
時じゃないと思い直し、殺虫剤を手に再びダッシュで家に
戻りました。
動きませんように、と強めに念じてから出かけたことが
功を奏してか、ヤツはまだ7時の位置に停滞していました。
罪は無いが許せと心の中でつぶやきつつシュッと一吹き、
かすかな音を立てて、Gは床に落下していきました。
Gの命は、特売のスーパードライ6缶パックと等価かと
思うとちょっともの悲しい気持ちにもなりましたが、
その後ハイボールをスイスイと飲んでいたら、忘れました。
人間は残酷な生き物です。
2021年、そんな夏の始まり。
2021.07.28